救急車で

親父が病院に運ばれた。

初めてのことや。

両親とも発泡スチロールの魚函製造の工場に勤めているが、帰宅後、親父はいつものようにトイレに入ってからシャワーを浴びるつもりだったらしい。

風呂に入ったはずが、食卓の自分の席で突っ伏している親父を見た母は、「お父さん、風呂入らへんの」と声を掛けたが応答しない。

体中から汗が噴き出している。

「お父さん」、ほっぺたを叩いても応答しない。

救急車を呼んだ。

周辺で一番大きい、市民病院へ向かう。

救急車の中で、顔色が戻り、意識も戻ったそうや。

CTスキャンの他、診察の結果、異常は無かった。

熱中症と貧血が重なっただけらしい。

ついさっき、母が電話して来た。

開口一番、「お父さん大変やったんやで」。

一瞬、冷えた。

「救急車乗った時、まあアカンと思たわ」

母は、いつもの冗談をいう口調ではない。

「入院したんか」と聞くと、「変わったろか」

親父が電話に出た。

ホッとしたが、確かにいつもの元気は無い。

「何にも覚えてないんや。救急車来た時、消防の兄ちゃんら居るのは気づいたんやけど、また意識なくなったんや」

話を続ける、「閻魔さんに来るなって言われたんさ」。

「気ぃ付けやなアカンで」電話を切る。

昭和10年生まれ、確かに爺さん。

でもな、ワシがあんたを越えるまで、逝ったらアカンで。

三段受かるまでは、逝ったらアカンで。

絶対やで…。

親父72歳、ワシ41歳。

厄年ってのもあるし、「覚悟」って言葉が頭をよぎる。

あわてないように、心得ておかなければならない。

そんな事を考えた、夜です。