よしやん
昔は魚市場と道路を隔てた入江町に実家があった。
自宅兼店舗、干物屋が魚市場に面していた。
毎日魚市場や通りを掃除してゴミ拾いしてくれるおじさんがおった。
皆は彼を「よしやん」と呼んだ。
本名は知らない。
うちの婆ちゃんと変わらん位の歳やったんかな、いつもムスッとした顔のイメージやけど子供好きだったらしく、釘と角材や発泡スチロールのかけらを加工して、近所の子供らに船のおもちゃを上手にこしらえてくれた。
喜んで持ち帰り、風呂に入る時に持ち込むと母は嫌な顔をしたが。
彼はれっきとした漁協職員で、得意技があった。
蛸を真上に放り投げ、市場の天井にくっつける、だけのことやけど、投げる時決して手に絡み付いたりしない。
子供には楽しい「ショー」やった。
彼は仕事帰りに婆ちゃんと立ち話しとったなぁ。
婆ちゃんも店の干物を「おかずに」と持たせてあげたりしてた。
そんなよしやんは、いつやったか、婆ちゃんと親父に挨拶に来たんや。
改まって何やろ。
一人暮らしやったんか、仕事辞めて、伊賀上野のホームやら施設やらに行くような話やったと覚えてる。
生まれてからずっと海の近くに住んできた爺さんが、山に囲まれた地の施設に入るのは寂しいやろなあと思たもんです。
あれから30年位経つ、今日何気に彼の事を思い出した。
おそらく、もう他界してるやろけどな、思い出して色々書いてたら胸が熱くなってきた。