お年寄り
今、ちょっと買い物するのに、バスで駅に出た。
途中から、娘らしいオバサンに手を引かれた爺さんが乗ってきた。
足腰が弱いらしいその爺さんは、ゆっくり、ゆっくり、手摺りにつかまり、足をステップに乗せ、動作を確実に確かめるように乗ってきた。
するとオバサンは「ありがとうございます」と運転手に言うでもなく、待たせた乗客に言うでもなく。
ふっ、とええ気持ちになるとともに、うちの婆さんを思い出した。
ワシが小学校低学年位の時、某団体で四国へ行った帰り、どこかの駅で高松行の急行に乗ろうとして、履物を片方、ホームと電車の隙間に落としてしまったらしい。
明治生まれ、出掛ける時は着物に草履でした。
親父と駅へ迎えに行き、片方の足袋の裏を汚して、よちよちと駅の改札を出てきた婆さんに事情を聞いたワシは、その姿がとてもいじらしく、可愛そうになり「駅員呼んで拾てもろたらよかったやん」、婆さんに言うた。
「そうやなぁ」
婆さんはニコニコ笑うだけやった。
後で思うと、駅員呼んで拾てもろたとして、電車の発車が遅れたら、一緒の団体だけでなく、その急行に乗ってる大勢のみなさんに迷惑をかける、と考えたんでしょうね。
「明治」の人、やさしい人でした。